型のむこうへ

2015-10-17 09.05.20

『日日是好日 ~「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』   森下典子 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

先日、私も「和のプチ講座」で、お茶の「盆略点前」を初体験しましたが、その前に見つけて、予習のつもりで読んだ一冊です。「ブックオフ」の108円均一コーナーで見つけて「おっ」と思ってゲット。

 

ちょっとした予習になればと読み始め、ところがこれが、猛烈に面白かったのです。本書には、お茶を習い始めて25年という著者の体験が、実に生々しく、実に感情移入を誘う文章で、活写されていました。

 

まえがきで著者はお茶のことをこう述べています。「すぐにはわからないもの」と。それはフェリーニの映画のように、後になってじわじわとわかりだし、「別もの」に変わっていくものだと。

 

友人と一緒に習い始めた「お茶」は、まさに「がんじがらめの決まりごと」の世界。とにかく、わからなくてもいいから、こうする。先生が教えてくれるその「やり方」はまた、季節によっても変わっていく。

 

しかし、その「覚えないといけないこと」を続けていく日々の中に、ある日突然わかる瞬間が訪れる。それは作法の意味、季節と寄り添うこと、もてなしの心、色んな「お茶の愉楽」が、だしぬけに著者を襲うのです。

 

そんな苦しさと喜びが、著者自身の人生の道のりと重ね合わされるように語られていく。その体験そのものも非常に興味深いし、その文章、その手腕もとても素晴らしい。香り、音、肌ざわり、まさに五感に響いてくる文章です。

 

森下典子さんというルポライター、エッセイストを私は知りませんでしたが、その最初の著書『典奴どすえ』というタイトルは記憶にありました。取材記者というイメージだったのが、まさかこんな本で出会うことになるとは。

 

お茶に限らず、日本の伝統芸能、伝統文化と呼ばれるものは、すべからく「型」を重んじます。それは作法と呼ばれたり、礼節といわれたり、とにかく「決まりごと」「やり方」から入っていくのですね。

 

それを徐々に、少しずつ身に付けていく中で、少しずつその向こうにあるものが見えてくる。型の向こうにある、自由が。それを著者がひとつずつ、コップに溜まった水がついに溢れるかのごとくつかみ取っていくさまは、感動的ですらあります。

 

堅苦しい作法を重ね重ねて、著者が何を会得したのか。それは本書をぜひご一読いただきたいですが、一言で言えばそれは「私は生きている」ということ、そう感じられました。

 

お茶に限らず、日本の伝統文化に興味がある方、そして日本人であることを大事にしたい方にとっての必読の書だと、心よりお薦めできる一冊です。


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