導かれるひと

2015-11-19 09.30.01

『前世への冒険 ~ルネサンスの天才彫刻家を追って』   森下典子 著   光文社知恵の森文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

ああ、なんということでしょう。毎回7のつく日は書評のブログと決めていたのに、今回それをすっかり失念していました。早くご紹介したい一冊だったのに、2日遅れでの投稿です。申し訳ありません。

 

ひと月前に書いた『日日是好日』と同じ著者によるもの。「お茶」を描いた同書は、その内容もさることながら、文体がとても読みやすくて気に入りました。なので森下女史の著作を調べていて、本書の存在を知った次第。

 

タイトルからして、とても興味をそそられます。もっともこれは、2回の改題でこうなったそうです。原著は『デジデリオラビリンス』というタイトル。このデジデリオというのが、天才彫刻家の名前なんですね。

 

そしてタイトルからご想像がつくと思いますが、著者はある「見える」女性に、「そのデジデリオ・ダ・セッティニャーノがあなたの前世、あなたはルネサンス期の彫刻家の生まれ変わり」と告げられるのです。

 

そこからが典奴こと著者の冒険の始まり。冒険とはすなわち、懐疑と検証の旅です。本書はそのルポルタージュなんですね。しかし驚くべきは、「検証」が出来るほどにその「見えた」内容が詳細かつ具体的であったということでしょう。

 

「見えた」数多くのビジュアルな断片。それを確かめ、繋ぎあわせ、史実と照らしあわせていくこと。文献を調査し、研究者に会い、そして現地へ実際に赴いてその場で感じてみる。その冒険譚はまさに推理小説のようなスリルに満ちて、私をぐいぐいと引き込み、一気に読了となりました。

 

びっくりしたのは、デジデリオと近しい人物としてレオン・バッティスタ・アルベルティが出てきたこと。私は大学では建築史を専攻していて、恩師は西洋建築史の先生でした。アルベルティはルネサンス期の「万能の天才」と呼ばれた建築家で、よく馴染んだ名前だったので。

 

私自身は、どちらかというと生まれ変わりということを信じる者です。しかし森下女史は、徹底した懐疑から始まって、でもその旅の中で偶然とは思えない数多の巡り合わせと出逢う。その抗いようのない人の運命のようなものを感じるのが、また本書の魅力だと言えるでしょう。

 

フィクションなのかもしれない話を追いかける、ノンフィクション。ちょっと他に類する著作が思い浮かばない、でも何かに導かれていくかのような人間の姿に心が高揚する、そんな感覚をくれる一冊です。


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