断固たる実験者

2015-12-17 09.53.03

『ダンシング・ヴァニティ』   筒井康隆 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

久しぶりに、本当に久しぶりに筒井康隆の著書を入手し、読みました。氏は私がその作品を最も多く読んできた作家ですが、最近はとんとご無沙汰でしたから。

 

最初に氏の作品と出会ったのは中学2年の時。いわゆる「ショート・ショート」と呼ばれる非常に短い作品を集めた『笑うな』という新潮文庫でした。私の読書歴は、星新一、小松左京、筒井康隆のSFショート・ショートから始まっているんです。

 

70年代、80年代に刊行されたものは全て読んでいるはず。20代の私は「ツツイスト」だったのでした。SFから始まり、ナンセンス、ブラックユーモア、スラップスティック、そして純文学へと広がる作品世界に、息を呑んだものです。

 

筒井作品から私が学んだものは、ひとことで言うと「既成概念をうたがう」ということでしょうか。とにかく既成の小説という概念を覆す、あるいは無視するような実験的なものが段々と増えてくるのです。そこには凄いパワーが感じられました。

 

自分が虚構内の存在だと認識している登場人物の物語である『虚人たち』(1981年)、夢と虚構と現実とが混じりあう世界を描いた『夢の木坂分岐点』(1987年)、この世から平仮名がひとつずつ消えていく世界を残った文字で描く『残像に口紅を』(1989年)などは、固唾を呑みながらの読書でした。

 

しかし『パプリカ』(1993年)あたりを最後に、筒井作品から徐々に遠ざかってしまった私。今回のこの一冊は2008年刊行の近作で、ちょっとした出来事から手に取ってみることになったのでしたが、読んでみてびっくり。

 

御年80を超えた巨匠、なんと更に過激になっている。

 

主人公の日常の光景が、コピー&ペーストのように繰り返されながら、徐々に歪み、捩れていく。やはり現実と夢、意識と無意識、生と死がないまぜになりながら狂騒的に進む世界。これはいったい何なのか。

 

久しぶりに脳を混乱させながらの読書はしかし、一方で私を安心させてくれました。筒井さんはやっぱり、ずっと筒井さんなんだ。おかしな言い方ですが、一時はその作品に浸りきった作家ですから、その健在ぶりが嬉しかったりもするのですね。

 

本作についての著者の言葉を借りると、「音楽や芝居など、他の芸術ジャンルの技法をつかってみた。小説はまだまだ遅れている」とのこと。まだまだやり残したことはある、ということでしょう。

 

小説というジャンルで、断固として筒井康隆であること、断固として実験者であること。それを続けている著者から、久しぶりに元気をもらえた一冊です。最近作『聖痕』の文庫も、読もうという気になりました。

 

ただし、非常にディープに実験的ですので、筒井作品が初めての方にお勧めすることは、断固としていたしかねます(笑)。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です