宿の味わい

2016-01-16 10.00.28

『名建築に泊まる』   稲葉なおと 著   新潮社

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

前回に引き続き、建築の本です。しかもタイトルが示す通り、「建築にこだわった宿」の本。日本全国を巡り、宿泊可能な30軒をエッセイと写真で紹介する、という一冊です。

 

著者は私と同じ一級建築士。設計者としての勉強のつもりで世界各地のホテルを見て回るうち、その旅の記録による文筆も業とするようになった方のようですね。

 

元は『週刊新潮』の連載であったようで、一軒につき文章と写真で4ページという短いものです。1ページ目にタイトルとその宿の歴史や建築的特徴の紹介、2ページ目にエッセイ、3ページ目は写真、4ページ目にエッセイの続きと宿としてのガイド(料金など)。

 

そして別に写真ばかりを集めたページがあるのですが、この写真の撮り方が、やはり設計屋さんだなあと思わせるものばかり。その視点やアングル、切り取り方に、自分と通じるものを感じました。

 

私は今まで、宿の建物に主眼をおいての旅、というのはあまり経験がありません。もちろん費用的なものもありますが、建築を楽しむ旅であっても、それが充実していればいるほど、宿に着く頃には疲れてしまってもうその気力がないから。

 

しかし、この本を読んで、ちょっと考えが変わりました。この中にはいくつか、明治・大正期の大邸宅であったものを宿にした建物が載っていたんです。京都・楽々荘、柳川・御花、神奈川・山月、など。

 

なるほど、そうした「住まい」としてつくられた建物を存分に味わおうとするなら、やはりそこで食事をし、眠り、目覚めることが本筋だろうなあ。そう素直に思えたのでした。

 

そう思ってからよく考えてみると、旅行で宿泊する先は、たいていが「ホテル」です。いわゆる旅館や民宿、本書に多くあるような木造建築の宿には、数えるほどしか泊まっていない。先述のように「寝るところ」という意識があるからでしょう。

 

私が今までしてきた「日中に予定を詰め込む旅」には、それでよかったのでしょうね。でも50歳を前にして、もっとゆったりとした時間を楽しむ旅もしてみたいなあ、という心境になってきています。

 

もしかしたら、そうした気分がこの本を手に取らせたのかもしれません。そして本書を読むと、さらにその気持ちはふくらみます。名建築に泊まりつつ、ゆったりとその風情を味わう、そんな旅へと。

 

設計屋である私にもそんな時間と空間を提供してくれそうな、素晴らしい宿たちのガイドブック。読むと旅に出たくなること請け合いの、心をつんつん刺激してくれる一冊です。


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