ゆとり時間のススメ

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『ソバ屋で憩う ~悦楽の名店ガイド101』   杉浦日向子とソ連 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

漫画家でエッセイスト、そして江戸風俗研究科であった杉浦日向子女史。癌のため早逝されましたが、粋な江戸っ子であった彼女の著作はいくつかもっています。でも、こういう本を出していたとは知りませんでした。

 

本書は「名店ガイド101」となっていますが、どちらかというと「蕎麦グルメ」の方のための本ではありません。タイトルが示す通り、蕎麦屋という場所での時間を楽しむための本なんです。それは文中に「身近なオアシス」と表現されていますね。

 

私も年齢とともに、早く安くではなく、雰囲気の良い店で一人ゆっくりと食の時間を楽しむ、という気持ちがわかるようになってきました。日本酒好きになってからはなおさらです。そして、蕎麦好きでもある。

 

日本酒と美味しい肴とで、ゆっくり時間を楽しみたい、でも賑やかな居酒屋へ一人ではちょっと入りにくい、そんな感覚もあったりして。となれば小ぢんまりした隠れ家的な呑み屋もいいですが、落ち着いた蕎麦屋も「有り」ですね。

 

そんな今の私にはかなりぴったりの一冊。掲載店の大半が東京なのはちょっと残念ですが、白い江戸の蕎麦が好きなので、東京出張の時の楽しみにと思いつつ、「ソ連(ソバ好き連)」の皆さんのガイド記事を楽しく読みました。

 

店の紹介の間に杉浦女史によるエッセイもあって、これがまた面白い。「ソバ屋の客のたしなみ」、「江戸のソバと酒」、「見目良きソバ食いとは」など、店と客との良い関係について書かれたものが多くて、やはり「蕎麦屋好き」の本なんだと感じます。

 

本書のお店紹介の最初には「特撰五店」という、ソ連による最高の栄誉を与えられた五つの店が載っています。そのうち二つは行ったことのあるお店、「並木藪蕎麦」と「室町砂場」でした。あと三つも行ってみたいなあ(一軒は山形県ですが)。

 

本書の刊行は1997年。その後2002年に『もっとソバ屋で憩う』と題した改訂版が出ています。しかし2016年の今、そのうちどれだけの蕎麦屋さんが現存しているか、という想いも頭をよぎりますね。

 

蕎麦が美味しく、酒も肴もよいものがあり、落ち着いて過ごせる店。採算性だけを言うなら、数を出す蕎麦屋、あるいは呑みをメインにする居酒屋の方がよいはずですから。あまりマニアックで高価な蕎麦屋というのもまたしんどいし、難しい業態であることも感じたりして。

 

なお、蕎麦屋好きがゆったりと時間を楽しむなら、人気店であればあるほどお昼時、夕餉時ははずす方が良いようです。本書によれば中休みのない店で、午後2時から4時くらいがベストだとか。

 

そういう時間帯をそんな風に過ごすことは、暮らしの中のゆとりであり、贅沢ですね。実はそれこそが、本書が一番言いたいことなのかもしれません。そういう大人の時間をもちなさい、と。

 

ガイドブックの体裁をしつつも、本書はそうした「ゆとり時間のススメ」であり、またそれが出来る「自分の店探しのススメ」であるように、私には感じられました。


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