くいものの粋

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『大江戸美味草紙(むまそうし)』   杉浦日向子 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

書評ブログ、2回連続で杉浦日向子女史です。前回は蕎麦屋好きのためのガイド。そしてそこからの関連で、今回は「江戸の食」に関するエッセイ集です。

 

お正月から師走まで、季節にあわせて江戸庶民の食べものを綴る12篇に、「甘いもの」「酒」「吉原の食」「長屋の食」の4篇を加えた合計16篇。その全てを貫くコンセプトの秀逸さが光ります。

 

それは、当時の「川柳」に描かれた食の風景から、江戸の食生活や風俗を読み取ろうという趣向。その効果は素晴らしく、当時の食材や料理を紹介するだけでなく、その食べものが江戸庶民の暮らしのなかでどう位置づけられているかがよく伝わるのです。例えば、次のような句。

 

たいがいにしろと数の子引ったくり

 

この句は、現代人の感覚で言うと「高価な数の子をあんまり食うなと引ったくる」となるのですが、これが全く違う。江戸の頃、数の子は非常に下衆な食い物だったのだとか。びっくりですね。

 

酒の肴にもならず、ただ大飯ぐらいの飯の友、というくらいの扱いだったそうで、そこから、江戸人の酒の肴は「音を立てないもの」が一番だった、との話にも。実は先の句で惜しまれていたのは、数の子ではなかったんですね。

 

全編、こうした江戸人の食習慣や風俗が、それぞれの食べものに絡めて描かれています。いわゆる「江戸前」の三役、寿司、鰻、天ぷらはもちろん、秋刀魚、鰹、泥鰌(どぜう)など江戸の食生活を彩った食材たちの往時の姿が。もちろん、蕎麦も。

 

しかし江戸の風俗研究文献のようなおカタイものではなく、杉浦女史お得意の軽妙な筆致で、時に往時の文献からの挿絵を入れ、時にご本人の漫画も登場。楽しく読み進めつつ、学ぶことができます。

 

タイトルで美味草紙を「むまそうし」と読ませているのは、幕末の絵師、月岡芳年の絵のタイトルに引っ掛けているらしい。本文中にも登場するこの絵、美女が天ぷらを食べている図で、タイトルが「むまさう(うまそう)」というのです。

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この絵を見るだけでも、天ぷらという食べものの扱いが現代と当時では違うのがわかりますね。長楊枝で刺して食べる、スナック的な感じ。今で言うコンビニの唐揚げ、みたいなものでしょうか。

 

そして本書を通読してひしひしと感じられるのは、江戸ッ子がもっていた美意識です。上方のしっとり、はんなりに対する江戸の「粋」。著者は文中でこう書いています。「そのなかには、勢い、意気地、そして活きが込められている」と。

 

江戸ッ子にゃあ乙粋な食いもんでなくっちゃあいけねえ。野暮をなにより嫌うその鮮やかさ。杉浦日向子の著作はどれもそうですが、読めば江戸へ時間旅行をしたくなること間違いなしの、まさに小粋な一冊です。


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