哀しき疑惑

2016-03-06

『裏切りのサーカス(原題:Tinker Tailor Soldier Spy)』   トーマス・アルフレッドソン監督   ワーキング・タイトル・フィルムズ

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

最近、映画館で観ることが出来なかった映画を「Amazonプライム・ビデオ」で時々楽しんでいます。画面が小さいのが残念ですが、それでも見逃した名作が楽しめるのは嬉しいですね。

 

本作もそのひとつ。日本では2012年封切りの、英仏独合作のスパイ映画です。これを先述のプライムビデオのリストで見つけ、喜々として早速視聴。その秀逸な出来に思わず唸ったので、少しご紹介を。

 

ジョン・ル・カレによる1974年作の小説の映画化。原題は、「 ティンカー(鋳掛屋) ・テイラー(仕立屋)・ソルジャー(兵士)・ スパイ(諜報員)」で、映画の内容を表しているのですが、日本では理解し難いとの判断か、違う邦題が付けられています。

 

タイトルの「サーカス」とは、MI6のこと。あのジェームズ・ボンドも所属する、イギリス諜報部ですね。諜報部員が主人公となるイギリスの映画と言えば、先日『キングスマン』をご紹介しましたが、本作はそれや007、ミッション・インポッシブルと言ったスパイ映画とは全く違います。

 

サーカスの内部に居るらしきソ連の二重スパイ「もぐら」とは誰なのかを突き止めるという、極秘の司令を受けた老諜報員ジョージ・スマイリーが主人公。彼が「もぐら」の存在を炙りだす過程が描かれたこの物語には、派手なアクションは全くなく、まさに心理ドラマと言っていいでしょう。

 

そしてその主役を演じるのは、怪優ゲイリー・オールドマン。それ以外にもコリン・ファースやカンバーバッチなど、イギリスが誇る名優陣が脇を固め、なんとも言えない厚みを感じさせる一作になっています。見応えがある映画とは、こういうものではないかと感じましたね。

 

あまりネタバレはいけませんが、原題のティンカーやテイラーというのは、サーカスの責任者によって二重スパイの容疑者に付けられた暗号名です。しかし、その責任者も死んで(殺されて?)しまう。スマイリーはその更に上司からの指令を引き受けざるを得ない。

 

冒頭の写真、『イミテーション・ゲーム』で主役を演じたベネディクト・カンバーバッチは、スマイリーと組んで捜査をおこなう若い諜報員です。しかし、一緒に行動しながら、彼はその相手も完全には信用できません。

 

また、スマイリー自身も、責任者から完全に信用されているわけではなかったことも、観ているとわかってきます。二重スパイを炙りだすという困難な営みの中で、全てに疑惑をもってしか行動できないその「諜報部員」という職業の哀しさが、じわじわと浮かび上がってくるようです。

 

この映画に描かれた冷戦の時代、実際にこうした二重スパイや、仕組んだつもりで仕組まれた、騙したつもりが騙されたという、壮絶な「諜報の罠」の応酬があったのですね。国家のため、そんな罠の仕掛け合いに身を投じる人間たちがいた。

 

「スパイ」というある種魅力的な響き、あるいは華やかなアクション・スターのような諜報部員像とは全く違う者たち。ここに描かれていたのは、「人を欺く」という宿命に生きる、哀しき人間たちのドラマでした。是非皆さんにも味わっていただきたい、重みある秀作です。

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