言は民なり

2016-04-07

『日本語 表と裏』   森本哲郎 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

最近、昔読んだ本をもう一度読み直す、ということが面白くて仕方ありません。家の本棚の奥のほうをごそごそ漁って、20年後、30年後の自分としてもう一度その内容に出会うことが。

 

本書もその一冊です。単行本として刊行されたのが昭和六十年、私が大学に入った年ですね。これを読んだのはしかし、30歳前後だったかと思います。評論家・森本哲郎による「日本語論」です。

 

非常に面白かったことだけを憶えていて、ひとつひとつの中身は忘却の彼方。本棚から引っ張りだして最初に思い出したのは、たしか解説が金田一春彦だったぞ、ということでした。

 

開いてみて、あ、やはり。その解説の最初を引用して、この本の説明としましょう。「この本は、日常使っている、何げない日本語の語句を通して、日本人の奥にある心性を明らかにした本である。」

 

まさに、私たちが普段何気なく口にする言葉について書かれた一冊。しかし、そのあたり前の言葉には、外国語に翻訳できない部分、日本人ならではの心のあり方が如実に現れている。

 

ここで本書の表紙をご覧ください。タイトルの周りに、本書で取り扱われている言葉たちがイラストとして並んでいますね。「よろしく」「やっぱり」「どうせ」「いいえ」「まあまあ」「もったいない」「ざっくばらん」などなど。

 

ひとつひとつの内容はご紹介できませんが、どれも日常的によく使われる言葉ですね。しかし、よく考えると、とても難しい。著者はその経歴から多くの外国人と接し、「意味の説明ができない」という経験を通して、それを痛感したようです。

 

本書ではその経験談もふまえつつ、ひとつひとつの言葉に隠された日本人の感情を、かなり突き詰めて考察しています。そしてそこから敷衍して日本人を語ることで、その独自性もまた浮かび上がってくる。

 

この表紙にはありませんが、改めて日本語の不思議を感じさせられた、「春ガキタ」という一文があります。それは「春ガキタ、冬ハ去ッタ」という文章の、「ガ」と「ハ」というふたつの助詞はどのように使い分けられているのか、という話。

 

確かに「春ハキタ、冬ガ去ッタ」とすれば、文脈の違いを感じますね。本書は30年前のものですが、著者は色んな学説を引きながら、それでも結局「わからない」としています。解説では金田一春彦も学者らしく自説を述べていて、それらの読み比べがまた面白い。

 

著者は最後にこう語ります。「私があらためておどろくのは、かくも微妙な『ハ』と『ガ』を日本人のだれもが、なんと幼い子供たちまでが、まちがえずに使い分けているという事実である。」

 

まさに、言語とは民族そのもの、なんですね。意識せずにあたり前に使えるけれども、そのルールを抽出することは非常に難しい。それは言語が科学ではないから。その言葉を使う人間の心そのものだから。私はそう感じました。

 

ふたつの助詞の使い分けのルールは、おそらく今もまだわからないままではないでしょうか。本書はそうした、日本語という言語の謎めいた魅力を堪能できる一冊だと言えるでしょう。


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