古びない絵

2016-04-10

〈建築界の巨匠たちの遺したもの、私はその映像を未来に残します。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。今日はマニアックな建築のお話にて、すいません。

 

昨日のこと、奥さんが私に言いました。「もう、このビデオデッキは使わないから処分しますよ」と。あ、はい、VHSなんてもう全然使わないもんね、と返事してから、あ、そや、ちょ、ちょっと待って!

 

こうした記録メディア、普段は確かにもうDVDに移行していますし、子どもたちはブルーレイなんかも使ったりしています。家族の記録を遺したビデオもPCに取り込んで、テープで置いてあるものもない。

 

でも、私にはVHSでもっている大事な映像があったんです。それをDVDにダビングするから、それまで待って、と奥さんにお願いをし、昨日から今朝にかけて、専用の配線をつなぎ、何とか移行を完了しました。

 

その映像というのが、冒頭の写真に写っているビデオテープ、3巻です。「現代建築家シリーズ」という、建築の世界で「巨匠」と呼ばれる建築家の作品を紹介したものですね。

 

ルイス・カーンが2巻、そしてカルロ・スカルパが1巻。どちらも、私が建築の世界に入ってから、とても憧れた建築家です。といっても、私が実作を体験したのは、スカルパのごく一部のものしかありませんが。

 

アメリカやイタリアを廻ってその実物の建築を見て廻るかわりに、ここに納められた映像を、何度も観ました。そしてそこで建築家自身の、そしてその建築に関わった人々の言葉を、何度も聴きました。そうして自分も、こんな建築をつくりたいと心から想ったものです。

 

このビデオを見ていた頃は、私は前職で施設建築の設計をしていました。その後木造住宅をつくるようになって、ここ10年ほど触っていなかったビデオテープ。でも、ビデオデッキ処分の話ですぐに思い出したのは、やはり私にとって大きな意味をもつものだからでしょう。

 

そして今回ダビングをするのにそれぞれのビデオを観返してみて、ちょっと驚きました。ひとつには、その中身を自分でほとんど覚えていることに。そしてもうひとつは、今も私はここに語られた内容に大きく影響を受けていることに。

 

ルイス・カーンから私は、「建築はそのつくられ方がわかるものであるべき」ということを学んだように思います。彼は組積造を好みました。「煉瓦に聞けば、『アーチがいい』と言うだろう」という言葉が彼の思想を表していますね。彼の「フォーム」という概念は、今も私の中で大きな意味をもっています。

 

カルロ・スカルパからは、素材、寸法、形を突き詰めて考えればここまで美しくなる、ということを見せてもらったように思います。素材に合った寸法と形を極限までデザインすること。新婚旅行の時に立ち寄った実作、オリベッティ・ショールームでの感動は今も忘れません。

 

どちらも、私がこの17年間つくっている木の家とはだいぶ違う建築をつくってきた巨匠です。でも、アーキテクトと名のつく人々の中ではこの二人が建築人としての私を最も揺さぶったと思います。日本の古建築も同じくらい好きですが、そこには建築家は居ませんので。

 

何を素材として建築をつくるのか、ということは、建築の価値には関係ないんですね。その素材の声を聴き、それに見合った、似合った形と寸法を考えてつくること。本当に久しぶりにこれらの映像を見て、改めてそう感じ入った次第。

 

古びることのない絵のように、今も全く色褪せない、その思想、その美。自分の原点をまた想い出すような、そして己の襟を正すような、そんなひとときもたまにはいいものですね。

 

DVDだと会社のPCでも気軽に見られるし、時々観返してみることにします。私のなかに刷り込まれたその絵を、またなぞるようにして。


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