余韻もふくめて

2016-04-27

『神隠し』   藤沢周平 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

つ、ついに藤沢周平に手を出してしまったあああっ、と思いながら入手した一冊です。藤沢作品、映画化されたものはいくつか観ていますが、小説を読むのは、本当に初めて。

 

映画化された作品というのは、『たそがれ清兵衛』、『隠し剣鬼の爪』、そして『武士の一分』ですね。どれも、いわゆる「海坂もの」。出羽国にある架空の藩、海坂藩を舞台にした作品群です。

(ちなみに『武士の一分』の原作は『盲目剣谺返し』というそうですね。)

 

まだ時代小説の初心者といえる私、そんなに早く藤沢作品に入り込んでいいのかとも思いましたが、海坂ものの長編たちでなく、本書のような短編集ならば、その一冊目にふさわしいかと感じた次第。

 

藤沢作品についてよく言われる(と私が感じている)ことは、とにかく文章が美しいこと。あるいは情景描写、心理描写の巧みさ。そして深みのあるストーリー、といった感じでしょうか。

 

そんなことを念頭に置いて読み始めましたが、一話終えるたびに、読み進むほどに、思わず唸ってしまいます。なるほど、確かにこれはすごい。藤沢周平の世界が、やはりそこにはありました。

 

私はまだまだあまり読んでいませんが、世に時代小説は星の数ほどあるでしょう。そのなかで「作家のもち味」を特徴づけるものとは何か。読了後、少しそんなことを考えたんです。

 

題材の採り方、時代と場所、登場人物の設定にも、作家の個性は出るでしょう。そして文体も、物語の進むスピードも、きっと書き手によって全く違うはず。そんななかで、この短編集から個性として私が感じ取ったのは、物語の結末のつくりでした。

 

短編小説というのは、おそらく長編よりも書けることが少ないがゆえに、その書き出しの設定、結末の設定は、全体においてかなり大きな役割をもっていると想像できます。そしてそこに作家の世界が現れる。

 

本書の短編、正直言って読了した時には、「えっ、そこで終わるの?」あるいは「そう終わるの?」と思えるものもあったんです。私が今まで読んだ短編と、終わり方が違う。

 

ははあ、これが藤沢周平の世界か、と思って、もう一度読み返してみる。そして、読み込んでいくと段々、最後の文章の後にも何とも言えない余韻が続いているのがわかるんです。あ、これは通好みや、と感じました。

 

物語そのもの、登場人物たちも面白い。といっても、所謂「いい話」はほとんどありません。ひと癖もふた癖もある人間たち、そして過去を葬りたい者たち。その絡みあう物語に、その話の仕舞いかたも独特の風情を添えているようです。

 

実はだいぶ前に買ったこの一冊、ここに書くまでに3回読んでいます。読むほどに滋味を増す文章に感服しつつ、読了後に裏表紙を見ると、そこにはこうありました。

 

「市井に生きる人々の感情の機微を、余情溢れる筆致で織り上げた名品全11編。」

 

私の筆ではありませんが、まさにこれが本書をひとことで表している、そう想います。本文だけでなく、読んだあとの余韻もふくめて作品世界なんだ、ということを強く感じた一冊でした。


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