寄り添ってとじる

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〈夕闇迫るころ、合歓の木の花は元気になり、葉は眠りにつきます。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

今日は、この時季に咲く私の好きな花のことを書きます。お休みを頂いていた今日、先日撮った写真を元にちょっと調べていたら、とても面白かったものですから。

 

冒頭の写真がそれ、合歓の木(ネムノキ)ですね。この梅雨の時期に咲く花といえば、まずは紫陽花(アジサイ)ですが、梔子(クチナシ)とネムもそう。どちらも雨に美しい花だと思います。

 

このネムノキの花、ふさふさとしてまるで末広がりの筆のよう。その淡紅色のグラデーションが非常に美しくて好きなのですが、これは花弁ではなくて雄蕊(おしべ)なんだとか。その細長い部分を「花糸」というのだそうですよ。

 

そして、何と言ってもその名前が特徴的です。ネムだから眠いのか、と思って調べてみると、やはりその名の由来は「眠り」にあるようです。ネムノキはマメ科で、複葉と呼ばれる何枚もの葉がひとつになった葉をもちますが、これを夜になると閉じるんですね。

 

その様子が、木が眠っているようにみえることから、ネムノキ。元は「ネブリノキ(眠之木)」と言ったという。うん、ここまでは私の観察からの想像どおりでした。冒頭の写真は午後7時くらいですから、葉を閉じようとし始めたところ、という感じでしょうか。

 

しかし、そこからまだ先があった。ネムノキを「合歓」の木と書く、その合歓の意味が私にはよくわかっていませんでしたが、ここに更なる面白さがあった。合歓は「互いを喜ばせる」ですが、そこには同衾、男女の営みという裏の意味もあるというんです。

 

そう言われてみると、合い歓ぶ(よろこぶ)というところから隠語として使われたのか、と想像がつきます。そしてこの合歓(ゴウカン)に、眠いのネムの音をあてたということか。ネムノキの葉が閉じる時、小さな複葉が合わさるように閉じますが、それを男女が寄り添うさまに見立てている。

 

いやはや、なんとも粋な、洒落た命名ではありませんか。先人のその感性には驚くばかりですが、さて、ここで万葉集のある歌を。

 

昼は咲き 夜は恋ひ寝る 合歓木(ねぶ)の花  君のみ見めや 戯奴(わけ)さへに見よ

紀女郎(きのいらつめ) (巻八 一四六一)

 

意味を調べてみると、以下のような解説が。「 昼に咲いて、夜には恋しい想いを抱いて寝るという合歓の花を私だけに見させないで。ほら、君もここに来て見なさいな。」

 

これは、紀女郎が大伴家持(おおとものやかもち)に贈った歌なのだそうです。紀女郎は年上の人妻で、戯奴(わけ)、というのは目下の者への呼びかけの言葉です。若い大伴家持をからかったような歌、ということでした。

 

万葉集の頃からこう呼ばれ、人々に親しまれていたということにも驚きますが、上のようなことを知って読むと、先の解説はだいぶ違うかも、と思えます。これはちょっとエロチックな誘いの歌ではないでしょうか。

 

夜になると寄り添うように葉を閉じるネムノキを、私一人で見るのは嫌だ。そう紀女郎は言っている。私もまた、ぴったりと寄り添いたい、そういう意味ですよねこれは。

 

粋な名付け、そしてそれをまた何とも巧みに歌に詠み込む、そのセンス。なんだか樹木の名前一つから、和歌という日本の先人達のメッセージを織り込んだ詩の素晴らしさへと至る、とてもエキサイティングな調べの旅でした。

 

思うに、古の人々が植物の名に、その姿かたちに、その色に託したものは、合歓の木にかぎらず、もっともっとこの日本語の世界に溢れているはず。現代人は忘れてしまっているそれを、時にこうして想い出し、共有することに、私は大きな意義を感じるものです。


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