浮遊するうらぎり

2016-06-28

『アヒルと鴨のコインロッカー』   伊坂幸太郎 著   創元推理文庫

 

「本を開いたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

今日は、私にしてはめずらしい類の本を読みましたので、そのご紹介です。伊坂幸太郎作品ははじめて。というか、この作家の存在をそもそも全く知らないまま、ある書評を読んで即「ポチッとな」してしまった一冊です。

 

なぜ「即」かというと、その書評で私は「伏線回収」という言葉を知ったのですね。話の「伏線」はわかりますが、物語中に散りばめられていたそれらが結末にまとめ上げられていくことを「回収」というんだ!先日ここに書いた未読の山を放置して違う本へなびいてしまった自分を少し責めつつ、でもその「伏線回収の名作」の言葉の引力のままに読み始めたというわけです。

 

少し読み進めた時、あれ?これはミステリーではないのか?と思いました。だって創元推理文庫ですし、いわゆる推理小説というか、ミステリーを想像していた私には、ちょっとあっけにとられるほどの「ほのぼの」した滑り出し。

 

物語は、「現在」と「二年前」のふたつが交互に進んでいきます。最初、そのふたつの物語はどう関係があるのかわからない。でも段々とその関連が見えてきはじめると、ページを繰る手が止まらなくなります。私も帰りの電車で読み終わらずに、駅のベンチで最後の十数ページを読みました(笑)。

 

読み終えた感想。こういうのを「新感覚ミステリー」って言うのかな。というか、あまりそういうミステリーものを読まない私の頭が古いのでしょうね、きっと。いわゆる伏線というのも、たとえば最初に殺人事件が起こって、段々と事件解決に向かっていくその手掛かりが文中のあちこちに隠されている、くらいの感じで思っていました。

 

でも、そうとは限らないんですね。ネタバレはいけませんので深くは触れませんが、このふたつの物語があるひとつの事実に収斂していくことがわかってくる終盤、それまで各々のストーリーに出てきていた言葉が、もうひとつのストーリーとつながる、そのつながり方が見えてくる。

 

そのテクニックは、確かにとても巧みです。物語自体も、最初のほのぼのから段々とシリアスになりはじめ、最後は切ないような、ほっとするような感じへ。その終盤に、最初のほのぼのの中にあった伏線が効いてくる。本書が「伏線回収の名作」と呼ばれるのはこういうことかと、頭の古いオジサンもとても納得できた次第。

 

そして最後に「あとがき」を読もうとして、「あ」と声が出ました。そのあとがきのタイトルが私の読後感にぴったりだったからです。それは「地上からわずか数センチの飛翔」というのでした。

 

そう、なんというか、この「新感覚?ミステリー」は、どこか浮遊感のようなものを感じさせる。私のその感じは間違っていなかったようで、あとがきの中に作者のある言葉が。「地上からわずか何センチか浮いているような物語を書ければいいんです」というのです。

 

ミステリーという言葉、伏線という言葉、私がもっていたそれらの固定観念を、そのほんの少しの浮遊感覚で、心地よくうらぎってくれたこの作品。伊坂幸太郎作品にも興味が出てきましたが、この浮遊感、私には「たまに」でいいかな。

 

でも、いわゆるミステリー=殺人事件、という私と近い感じの認識の方には、ちょっと浮いてみるのも面白いですよ、とお薦めしたい一冊です。

 

 

※ちなみに、読み終わって「これは映像化出来ないな」と確信したにも関わらず、本書は既に映画化されているそうです。どうやって???と思いましたが、それもネタバレになるので、ご報告にとどめておきましょう。


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