あずけ方・ささえ方

2016-06-29

〈旭川からもう少し。色んな椅子を見る中で、かなり衝撃を受けたものを。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

旭川から帰ってきて、3日間連続で回想録を書きましたが、実はまだ書きたいことがあります。今日は私の「座る」ことについての新しい体験の話に、少しおつきあいくださいませ。

 

冒頭の写真、左側の青い座面の椅子がありますね。これが今回のADWのメイン会場「旭川家具センター」で、とても新鮮な驚きをもたらしてくれた椅子。衝撃と言ってもいいでしょう。

 

メーカーはメーベルトーコーさん。こういう椅子を「ハーフチェア」というのだそうで、「オプト」という名前でした。写真から伝わりますでしょうか、その名の通り、座面の奥行が半分しかないのが。

 

この椅子を見かけた時、横にチェロが置いてあるのを見て、なるほど、こういう楽器演奏者のための椅子もあるんだなあ、なんて思ったのです。でも試しに座ってみてびっくり。とても心地いいんです。

 

見るからに座りにくそうなこの椅子。その半分しかない座面にお尻を載せると、確かに太ももの裏側は椅子に載っていません。チェロ奏者は足を開きますから、これが好都合なのでしょうね。

 

でも、座面が浅い分、きちんとお尻を奥に入れて座らないと座れない。そしてそうすると、背中の下のほうがぴたりと背もたれに当たる。要するに、正しい姿勢でないと座れないわけです。そしてそれが私の体格にちょうどよく、姿勢を維持して座るのが気持ちいい。

 

なんでこういうことになるのか、と思って、しばし観察したり、何度も座り直したりしていました。そして思ったのは、やはり各部の寸法の絶妙なバランスです。

 

座面の床からの高さのことをSH(エスエイチ:シートハイ)と言うのですが、この椅子はSHが47センチある。普通のダイニングチェアは43センチくらいのものが多いですから、この4センチの差は大きい。

 

このSH、そして座面の奥行、背もたれの位置、これらのバランスが、ちょうど私の体格に合っていたのでしょう。写真をよく見ていただくと後方にパソコンデスクがありますが、このハーフチェアは楽器演奏だけでなく、長時間のPC作業などに向いている。姿勢が崩れず、疲れないでしょうから。

 

ここで、次の写真をご覧ください。匠工芸さんの「WEAVE」シリーズ、その中でも私が一番好きなのはロッキングチェアです。

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座面は低く、深く、なおかつ後ろに傾いて。背もたれは高く、安心して頭をあずけられるように。そして足を投げ出し、手をアームに置き、全身の力を抜く。この椅子の寸法は、そういう心地よさを演出しています。

 

この椅子の心地よさと、ハーフチェアの心地よさは全く違う種類のもので、むしろ正反対と言えるほどですね。でも、それを生み出している秘密は同じもの。すなわち、各部の寸法のバランスでしょう。

 

こういう極端な事例を続けて体感すると、色々考えさせられます。そして、「椅子は難しい」となおさら感じざるをえません。なんといっても人間がその体をあずけるものですから。

 

この椅子で人は何をするのか。その時にはどういう体重の預け方がふさわしいか。そして、それをどのように受け止め、支えるのが望ましいか。各ブースにズラリ並んだ椅子たちは、全てそれぞれに、そういう検討を数限りなく重ねてきているんですね。

 

それはつくり手としてはあたり前のことなのかもしれません。でも、それに座ってみている私たちにはそこまでの事情はなかなか届かない。そして同じつくり手として建築の世界にいる私も、なかなかそれを想像しきれていないでしょう。

 

このちょっと異質な椅子・ハーフチェアが、その衝撃で私の思い込みを払拭し、眼の曇りを洗ってくれた、そんな気がします。いや、椅子は難しい。でも、椅子は楽しいですね。


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