江戸蕎麦のCS

2016-07-09

吾妻橋藪そば  「もり 小」

2016-07-09-2

芝大門・更科布屋 本店  「御膳更科」

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。今日は食べもの、お蕎麦の話です。しばしおつきあいのほどを。

 

先日、一泊二日で東京出張でした。大体2ヶ月に一回くらいのペースで東京へ行くことになっていますが、向こうへ行くと私は頻繁にお蕎麦を食べています。江戸蕎麦がとても好きで、今回も4食いただきましたね。

 

関西の方にはうどん派の方が多いかもしれませんが、私は断然蕎麦派。関西にももちろん美味しい蕎麦屋さんはたくさんありますが、でもそれよりも、あるいは信州蕎麦、山形の蕎麦よりも、江戸蕎麦が好きです。

 

皆さんは江戸蕎麦に「御三家」があるのをご存知でしょうか。それは「藪」、「砂場」、「更科」のみっつで、それぞれの系列の店では、全くと言っていいほど違うお蕎麦が食べられます。私のお江戸での楽しみは、その食べ比べにもあるんですよ。

 

今日の写真、上は「藪系」のお店、「吾妻橋藪そば」でいただいたもの。人気のお店ということで初めて行きました。これは「もり」ですが、この言い方は関西ではあまりしませんね。「せいろ」とか「ざる」と呼ばれることが多いようです。

 

対して下の写真は、ほぼ毎回訪れるお店「芝大門 更科布屋」で今回いただいた「御膳更科」。驚くほどに真っ白でしょう?こういう蕎麦を食べさせるところは、関西では私は知りません。とても上品なお味です。

 

この「藪」と「更科」、そして今回は行かなかった「砂場」、それぞれの系列の店が違ったお蕎麦を出します。藪と更科の違いが一番大きいのでそれを書いてみましょう。

 

まず藪の蕎麦はかなり濡れています。茹でて冷水に晒し、すぐに食べる。蕎麦の実の全体を引いた「挽きぐるみ」と呼ばれる粉で、太さは普通くらい、そして最大の特徴は、つけ汁が辛い(味が濃い)ことです。蕎麦を全部つけると辛すぎるので、1/3くらいつけて一気にすすり込みます。

 

それに対して更科の蕎麦は、そこまで水を残していません。扇風機で乾かす店もあるくらいだそうです。粉は特殊な製法で実の一部だけを取ってくる「更科粉」で、かなり細い麺です。そしてつけ汁は丸い優しい味。蕎麦を全部つけて食べられます。

 

その違いは食べてわかるし、どちらもとても美味しいのですが、では何故そういう流派というか、違いがあるのか。私も以前はまったく知らなかったのですが、「そばもん」という漫画でその理由を知りました。それは、客層の違いだったんです。

 

江戸の昔、藪系の蕎麦屋は、日々忙しくしている職人を相手にしていたそうです。そして更科系の蕎麦屋は、武家のお屋敷や、町内の顔役たちの寄り合いなどへの出前を主にしていたのだとか。そして砂場系は、その中間ともいうべき、商家がその客層だったというんです。

 

職人を相手にささっと食べてもらう、その食べ方で一番美味しくできるのが藪系の蕎麦。即ち茹でたて晒したて、水がついたまま食べるという方法と、それに合った濃いつけ汁だというわけ。

 

そして出前する時間、さらにお武家さまが食べるまでの時間を考える更科系の蕎麦屋は、よく水気を飛ばし、時間が経っても美味しく食べられる方法に特化した。そしてそうした蕎麦は、汁につけると水を吸いますから、辛くない優しい丸みのあるつけ汁になった。

 

蕎麦のつけ汁は「かえし」という、醤油と砂糖を混ぜて煮返したものからつくるのですが、これのつくり方も藪系と更科系では大きく違うそうです。藪系は「生がえし」、更科系は「本がえし」と、汁の製法もその食べ方に合わせて工夫されているんですね。

 

これ、まさにCS(カスタマー・サティスファクション:顧客満足度)についての良い話ではありませんか。それぞれの相手がもつ時間に合わせて、ベストなタイミングで美味しく食べられるお蕎麦を、商品としてつくっているんですから。

 

蕎麦粉、打ち方、麺の太さ。そしてそれにあったつけ汁と食べ方。全てが、ターゲットの客層が一番美味しく食べられるように、つくり上げられている。各系列の味として今に遺るそれは、まさに江戸商人の苦労の賜物、素晴らしい成果なんです。

 

こういう由来を知ってから、私はさらにそれぞれの味の食べ比べが楽しくなってきた次第。おそらく江戸の人々は「身分」というものによって、あまりこうした別の系列の食べ比べは出来なかったかもしれないなあ、なんて思いながら。

 

そんな、現代人ならではの贅沢を満喫しながら、江戸蕎麦でちょっと粋な時間に浸るのが、私の東京出張の大きな楽しみ。せっかくの遠出、関西と関東の食文化の違いをこそ、味わいたいものです。


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