玲瓏なる響きをもって

2016-07-27

『銀漢の賦』   葉室麟 著   文春文庫

 

「本を開いたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

またも素晴らしい物語に出会ってしまいました。2007年・松本清張賞受賞の本作をふくめ、葉室麟氏の作品自体、初めてでした。直木賞受賞作『蜩ノ記』の方が知られていますが、Amazonで見たこの表紙に惹かれて、ポチッと。

 

いや、なんとも美しい装丁ではありませんか。私の好きな群青色の表紙、そしてそこに描かれた天の河。タイトルにある銀漢とはこの天の河のことを指す言葉だと、本書の中にも漢詩にて紹介されています。

 

そしてその装丁、その絵に違わぬ心震わせる物語が、そこには描かれていました。本作は、男たちの友情の物語。変わりゆく世と互いに離れゆく人生という道の行方、そしてそれでも変わらないものの物語です。

 

舞台は、西国の月ヶ瀬藩という架空の藩。そこで家老にまで登り詰めた男と、一地方役人として過ごす男、そしてもう一人、百姓一揆の主導者として処刑された男。

 

かつて友であった三人の人生という道は少しずつ離れていき、一人はその道の途中で命を落とす。残された二人がその生き様の果てに、もう一度進む道を一瞬綴じ合わせようとするその試みが、各々のそれまでの人生と併せて描かれています。

 

ネタバレはいけませんが、本書タイトルはいわゆる「ダブルミーニング」になっています。「銀漢」は天の河のことでもあり、頭に白いものが混じった漢(おとこ)のことでもある。「賦」は詩歌のことでしょう。天の河の詩、そして漢たちの詩。

 

読了後、その余韻にしびれながら読んだ解説に、この作品を一言で表すのにぴったりの言葉がありました。それは「硬質のロマンティシズム」というものです。硬質なものとは、それぞれの漢たちの魂のあり方のことでしょう。

 

そしてこの解説で、私は「玲瓏(れいろう)」という言葉を知ったんです。玲瓏とは音の表現で、「玉などが、さえたよい音で鳴るさま」だということ。まさに、この物語の中で硬質な魂たちがぶつかりあう、その響きを表現するのに相応しい。

 

また、天の河のことを「銀漢」と詠んだ漢詩の世界も、本書に特別な情緒を添えています。著者はこうした漢詩や和歌など、古の先人たちが詠んだ詩歌に造形が深いのでしょう。それがまた物語に重みを添える。

 

本書が、物語として、そう特殊なものであるとは思えません。しかし、その構成力、筆力によって、物語とはここまで昇華されうるものか。その清冽な読後感に響いているのは、まさしく玉の鳴る音のようでした。

 

今日は何だかあまり書評になっておらず、賛辞ばかりな感じで申し訳ありません。しかし、こうした衝撃は滅多になく、我知らずその後次々に葉室麟作品を買い漁ってしまう、と言えば、私の感激が伝わりますでしょうか。

 

まさしく正統派の時代小説、その透明な物語空間の中に、玲瓏なる響きが冴えわたるのを感じてみたい方は、是非ご一読くださいませ。


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