俯瞰へ、そして核心へ

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『バンテージ・ポイント(Vantage Point)』   2008年アメリカ映画                ピート・トラヴィス監督   ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント配給

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

時々観ている「Amazonプライム・ビデオ」で、久々に素晴らしい傑作に出会いました。8年前に劇場で観たかったなあ、と若干の後悔をもちつつ、今日はその作品をご紹介しましょう。

 

サスペンス・アクションと称されるジャンルのこの映画、上映時間は90分。最近の作品にしては短いですね。しかしもっと驚かされるのは、この作品内の時間。それは、わずか30分ほどの物語なのです。

 

その間に起こったことは、アメリカ大統領の狙撃事件。場所はスペインのサラマンカでおこなわれた、テロ撲滅のための国際会議です。この映画を一言で言うなら、その顛末を追う作品ということになるでしょう。

 

しかし、本作の素晴らしさはその脚本と構成にあります。劇場公開時のポスターにあった文句はこう。「大統領を撃ち抜いた1発を、あなたは8回目撃する。」まさにそういう、時間について凝ったつくられ方がこの映画の魅力ですね。

 

タイトルであるバンテージ・ポイントとは「有利な視点」という意味だそうで、8回目撃するとは、いろんな人の視点から同じ事件を何度も見るということ。そしてその人物だからこそ見えるその光景の意味合いを通して、事件の全貌が徐々に明らかになる、という趣向です。

 

と、言葉で書くと簡単ですが、この複雑さと面白さはとても文面では伝えきれません。最初はよくわからなかったこの手法が、徐々に観ている者を物語へと引き込んでいく。

 

8人の登場人物の視点から見た8つの「章」は、常に重要な場面の直前で終わり、いやが上にも次への期待を高め、サスペンス性を増します。こういうのを「クリフハンガー形式」というのだそうですね。

 

そして次の章で違う視点からの同じ短い時間を繰り返すと、前の章では見えていなかったことが、それを知っている人物の視点でははっきりと見える。その発見と意外性が真相へ導く鍵なのですから、もう90分間まったく眼が離せません。

 

視点を変えながら何度も繰り返される、正午から25分間ほどの時間。しかしその度に私たちの視点も、徐々に変わっていきます。何人もの登場人物の視点を通して得た情報を元にして、この物語を俯瞰する視点を獲得していくんですね。

 

そしてそれと同時に、近過ぎると見えない事件の真実が、俯瞰する視点を得ることによって見えてくるんです。まるで森の中の湖を探すがごとく、視点が上空に移ることでこの物語の核心が感じられてくる。

 

冒頭の写真でひときわ大きく写っているのが、本作の主人公、大統領のSPであるトーマス・バーンズです。彼自身の視点の「章」もありますし、8つの視点を観終えた後の「神の視点」のクライマックスでの彼の奮闘は、本当に息詰まる数分間でした。

 

一度観てあまりの面白さに呆然とし、二度見てその構成に唸り、三度目にはそれを成立させる脚本に感動。こういうことは滅多にありません。アクションは派手ですが、つくられ方はおそろしく緻密です。

 

おそらく本作の手法には、黒澤明『羅生門』が意識されていると思います。でも安易なリメイク版をつくるより、こうした「手法へのオマージュ」をもって新たな作品をつくることの素晴らしさも、併せて感じた次第。

 

そんな、物語そのものと、その映画としての魅せ方の両方に感動できる一作。たかが30分間の中に、底知れぬ深さがあります。映画が好きな方にこそ、「必見」の一本としてお薦めいたしましょう。


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