もうひとつの目線

2016-08-18

『アートは資本主義の行方を予言する』   山本豊津 著   PHP新書

 

「本を開いたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

自分のものの見方、その新しい術に開眼する。これは人生において得難い貴重な体験だと思いますが、私もとても興味のある芸術という分野において、それをもたらした一冊をご紹介しましょう。

 

この著者のことを知ったのは、あるYou Tube上の動画でした。そこにこの、山本豊津(やまもとほず)という変わった名前の画廊主が出ていたんです。そしてその発言に何やら大いなる引力を感じ、即Amazonへ。

 

本書は昨年発刊ですから、かなり新しい。まさに現代の世界が直面する問題にまでアートという切り口で迫っていて、最後はかなり緊迫感をもって読み終えることになりました。

 

現代美術を採り上げることにおいて、国内での嚆矢となった「東京画廊」。著者はその二代目であり、ムサビの建築学科を出て、その後政治の世界で大蔵大臣の秘書を勤め、しかるのちに画廊を継いだという異色の存在です。

 

しかし本書には、その著者であればこその、現代美術と経済、あるいは政治というものの抜き差しならない間柄が描かれていました。例えばマルクスの用語である「使用価値・交換価値」という言葉で美術品を説明する、というように。

 

一体なぜ、絵画や彫刻というものはあれほどまでに高額になるのか?ましてや意味がよくわからない現代美術であれば尚更で、そういう疑問が湧くのは当然に思えますね。しかし、資本主義経済ではなるべくしてそうなっている。著者はそう説くのです。

 

資本主義経済の本質、そして常に「中心から周縁へ」と移行するマーケットの理論。アートの世界での周縁とは何かを問い、日本という国が現代世界で置かれている状況をアートの面から照射する文章は、とても刺激的でした。

 

また、アートというものが時の権力から弾圧された歴史をふまえ、それが何故なのか、そうした政治との関係も解き明かされています。権力者が恐れた「アートのもつ力」を意識することは、その鑑賞の仕方にも深みをもたらしてくれそうです。

 

「価値の転換と飛躍こそ芸術の本質」と著者は言います。キャンバスに切れ目を入れただけのフォンタナの作品は、それまでの絵画の「あたり前」を大きく揺るがし、今までに無かった「美」という価値を提示した、と。

 

そしてそれは現代美術に始まったことではなく、かつて千利休がおこなったことと同じ。常に前の時代を乗り越え、美の基準を書き換えてきたのが芸術の歴史であり、その点で権力との関係も時に蜜のごとく、時に危うくと、揺れ動いてきたんですね。

 

そうした現代社会におけるアートと社会の関係を流々論じた上で、その最終章にはあの「イスラム国」についての記述が。アートの点からこの集団を論じたものを初めて読んだので、非常に考えさせられるものがありました。

 

そしてそのまま、同じ視座から日本文化の進むべき方向性についても話が展開する。その広がりと示唆の深みはまさにタイトルの通り、資本主義社会の行方を予言するかのようです。

 

まことにアートとは、現代社会を読む「もうひとつの目線」なのだと思い至って、冒頭の言のように「開眼」を感じた私でした。ならば本書は、「ようわからん」と現代アートを忌避する人にこそ更に刺激的な一冊、なのかもしれません。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です