素材と手の声

2016-09-14

〈木であれ鉄であれ、佳きものづくりは「頭でっかち」ではないのです。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

今日は岐阜へ出張、関市にあるアイアン製品の杉山製作所さんへ行ってきました。この時期におこなわれる「factory展」と題した製品展示を昨年拝見して、また今回も見るのを楽しみにしていたんです。

 

さらに今年は、かなり気になる話題が加わっていました。それが冒頭の写真のモノ。家具デザイナーの村澤一晃さんとのタッグで「無垢の鉄の椅子」をつくった、と聞けば、これは行かないわけにはいきませんね。

 

この椅子、名前を「felice(フェリーチェ:イタリア語で「幸せ」)」といいます。名前の最初が「fe(鉄の元素記号)」で始まって、座る人を幸せにするような心地いい椅子、ということだそうです。なるほど。

 

冒頭の写真のものは特別製の漆塗りですが、通常のモノはこんな感じです。やはり木の椅子よりはとても部材が細くすっきりとしていて、なおかつ柔らかな優しいデザインです。是非ご一緒にお楽しみを。

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後ろ姿もいいんです。もちろん、座り心地も。

 

実は今日は、完成したプロダクトとしての展示だけではありませんでした。デザイナー村澤さんと、実際にそれをつくった鉄の職人さん方によるトークイベントで、その開発秘話が語られる、という趣向。

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私にはよくわかりますが、職人さん方は普通、喋るのが得意ではありません。今日も手前の村澤さんが主に語っておられましたが、でも言葉少ないながら、実感のこもった製作上の声も聞くことができました。

 

村澤さんによるものづくりは、常に「つくり手」と共にあります。職人さん方のもてる技術を引出し、それをふまえたデザインをもって、一緒につくる。今までは木製品がほとんどでしたが、今回の鉄の椅子も全く同じ手法で出来上がっています。

 

村澤さんご自身も今まで経験のない鉄という素材、まずその材料特性から始まって、その鉄にどういう加工が杉山製作所の職人さん方によって可能なのか。それを見極めつつ、なおかつ「工芸品」ではない「プロダクト」としての椅子をつくる。

 

今日のトークから、そこへ向けた過程、何度も試作を重ねながらつくり手と共に徐々にデザインやディテールを詰めてきた経緯が、とてもよく伝わってきました。私もその「一緒につくる」の部分で、村澤さんの想いにとても共感しています。

 

そしてトークの後は工場に移動して、この「felice」の部材組立て作業を見せていただきました。いやあ、とても面白い。その開発の経緯、苦労談を聞いた後だけに、なおさら面白いんです。

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無垢の鉄ですから、組立は溶接。左は同じ寸法で組立てるための「治具(じぐ)」です。

 

私は杉山製作所さんのアイアン製品をよく知っているつもりでしたが、でも今日は実際にモノが出来ていく工程を見せていただいて、その木との違いに改めて感心。やはりつくる現場をよく見ないといけませんね。

 

でも、村澤さんが今日おっしゃったように、佳きものづくりの本質は素材が変わっても同じだな、ともまた感じました。即ち、使う素材の声を聞くこと、そして、実際につくる人間の声を聞くことです。

 

教科書を鵜呑みにしたような「頭でっかち」なデザインは、実際につくる人間の感覚や経験のまえでは、何ほどの価値もありません。どうやればつくりやすく、美しく仕上がり、なおかつ必要以上のコストを掛けずに済むのか。それは机の上ではわからない。

 

絵画や彫刻と違って、家具や建築はデザイナーが自らつくるものではなく、だからこそ素材の声とつくり手の声、どちらにも耳を澄ませる必要がある。こうして書くと当然のことのようですが、でも実際はそのバランスが悪いものづくりも非常に多いのです。

 

木じゃなく鉄を素材としても、やはり村澤さんのものづくりの姿勢は同じでした。あたり前だけど、でも何だか安心しましたね。杉山製作所さんも、この椅子をもって更にまた進化されたことが実感でき、岐阜へと脚を伸ばした甲斐ある、実り多き時間でした。


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