寡黙なウエスタン

2016-10-09

『ラスト・ターゲット(原題:The American)』  2010年アメリカ映画  アントン・コービン監督   フォーカス・フィーチャーズ配給

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

秋の三連休、私も志事はしていますが、ちょっとのんびりペースです。そんな中、Amazonプライムビデオで良い映画と出会ったので、少しご紹介しましょう。

 

ジョージ・クルーニーという俳優、私もいくつかの作品でその演技を観ていますが、こんなにストイックで無口な役ははじめてです。身体も絞っているようで、かなりこの「殺し屋」という役に入っている感じがしました。

 

また、よく思うことですが、邦題がよろしくないですね。原題の「The American」を念頭に置いて観ると、よく腑に落ちる映画でしたから。でも、それはいわゆるアメリカ映画的ということではなく、全くその反対です。

 

舞台は最初はスウェーデン、その後イタリアのカステル・デル・モンテという、丘の斜面にへばりつくような石の街へとうつります。田舎の、まるで時間が止まったような、美しい街です。

 

そこでの待機を命ぜられて移ってきた殺し屋ジャック、その前のスウェーデンでの事件があってのことですが、ここでも彼には安穏な時間はなく、否応なくその街におよそ相応しくない危険な出来事に巻き込まれていきます。

 

とは言え、いわゆるハリウッド映画的なカーチェイスや迫力あるアクションのシーンはありません。特に中盤、とても静かに淡々と物語は進んでいきます。しかしその静謐さがかえって、追われるジャックの心象を浮き彫りにする。

 

この映画には原作があり、それは「エッセイのような不思議なミステリ」と呼ばれる作品だといいます。英国人作家マーティン・ブースによる『暗闇の蝶』という小説。

 

主人公はイギリス人で、ミスター・バタフライという人物。全編がほぼ彼の「語り」だけで出来ており、映像化が難しいと言われていた小説を映画化するにあたって、監督は「西部劇」の手法でそれに形を与えたそうです。

 

「よそ者が小さい町にやってきて、その町の人と交流するが、過去に追いつめられ、対決を迎える。本作は正確には西部劇ではないが、構造的には西部劇を踏襲している。」(アントン・コービン監督)

 

確かに、ストーリーは複雑ではない。田舎町で待機するジャックにボスから来た指令は殺しではなく、殺し道具を改造することでした。このあたりから、その邦題も含め、なんとなく映画全体のつくりに想像がついてくるんです。

 

しかし、それが観るものの興を削ぐことはありません。むしろ、なんとなく想像されるそのストーリーが、淡々と進む静かな風景と細やかに描写される感情表現によって、より怖さを増すかのよう。

 

原作ではイギリス人である主人公がアメリカ人になり、そして西部劇の構成というのもアメリカ的ですね。そうしたアメリカ的なものが、古い歴史を今に遺す片田舎の街に、静かな波乱を巻き起こしていく。

 

寡黙な主人公がその波乱の中で見つけたもの、そして失ったもの、それらを淡々と描き、疑い、恐れ、憂いや哀しみをしっとりとこちらに伝えてくる。そんな地味な、しかし味わい深い映画だと感じました。

 

ネタバレしないように書くので伝わりにくい部分も多いかと思いますが、オランダ人の監督による「The American」というアメリカ映画、そのギャップをこそ愉しみつつ観たい一作です。

 

 

※なお、監督の脚色によって映像となり得た本作ですが、しかし原作のもつ静謐な雰囲気は損なわれていない、そういう映画評を読みました。なので早速、原作『暗闇の蝶』も読んでみようと思います。


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