道具の思想

2016-11-11

〈初めての場所で出てきた道具と、久しぶりの再会を愉しみました。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

今日は西宮・甲陽園近くのお客さまのところへ打合せに行ってきました。外構リフォームのご依頼をいただいてご提案をし、今日は職人さんと着工前の工事内容確認です。

 

いつもは車なのですが、今日はちょっと時間に余裕もあり、夙川乗り換えで甲陽園駅へと電車で行ってみました。一駅手前の苦楽園口へはよく行きますが、甲陽園駅はまず行くことがなく、ちょっと興味もあって。

 

午後一番の打合せでしたが、街歩きをしてみようと11時台に着いて、まずは目をつけていたお蕎麦屋さんへ。お昼前後に外出する時は、その地域のお蕎麦屋さんをチェックするのが習慣になっていますね(笑)。

 

そして、初めてのお店ではいつもそうするように「もり(あるいは『せいろ』)」を注文。そうしたらお蕎麦と一緒に、久しぶりに見る道具が出てきて、私は何だか嬉しくなってしまったのでした。

 

冒頭の写真に写っているのがそれ。鮫皮(さめがわ)おろしですね。お若い方はご覧になったことがないかもしれません。これは、山葵をおろすこと専用と言ってもいい、昔から使われている日本の道具です。

 

鮫の皮は人間の歯と同じエナメル質で出来ているそうで、その硬さと目の細かさを利用して、おろし器に使っているんですね。これでおろす山葵はとてもクリーミーで、おろし金のものとは全くの別物です。

 

山葵のあの鼻にツンと抜ける成分は、より細かく砕くほど強まると言います。単に歯ざわりがクリーミーなだけでなく、この鮫皮おろしは、山葵を最も美味しく効果的に食べるための完成された道具なんですね。

 

お蕎麦の前に鮫皮おろしでゆっくり山葵を擦る。その時間もまた楽しく、より食のひとときを充実させるようでとても嬉しい。そして山葵をおろし終えてふと見ると、薬味には大根おろしも添えられていました。

 

そこからの連想ですが、この大根おろしにも、面白い道具があります。「鬼おろし」と言いますが、これも若い方はご存じないかなあ。こういうモノです。

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竹でできた鬼おろしは、素材を粗くおろすことで食物繊維や水分を逃しません。おろし金でよくあるように水分が分離せず、ふわっとシャキシャキのおろしになる。大根おろしをそのまま口にするのに、これは大きな利点ですね。

 

鮫皮おろしは山葵を、鬼おろしは主に大根を、それぞれにその食材を最も美味しくいただくために、その素材や形がとことん工夫されている。そこに私は「道具がもつ思想」を見る思いがします。

 

銅で出来たおろし金も、江戸時代からある日本の道具です。しかし日本人は、食材を「おろす」ということをもっと細分化し、それぞれに適した道具を編み出して使ってきた。それはまさに、素晴らしい日本文化のひとつでしょう。

 

もちろん日本以外のどの国にも、昔から使われている食のための道具はあるはずで、その思想はきっと、どの国もそう変わらないと想像できます。食材を最も上手に調理するための素材や形が求められている。

 

「おろし」で言うなら、フランスのチーズおろしは上記のどれともまた違った形をしていますね。そういう違いがとても面白いし、私はこうした優れた道具を見るたびに、その国の食文化をつくってきた人の営みに敬意を表する想いになるのです。

 

今日のお昼ご飯、優れた道具を使う楽しさとそうした想いが合わさって、よりお蕎麦の味わいを深めてくれたように感じた次第でした。

 

ちなみに、冒頭の写真には「湯桶」も写っていますね。これもまた優れた日本の道具です。だいぶ前になりますが、「湯桶のかたち」と題してこのブログにそのことも書きましたので、そちらもご笑覧いただけましたら幸いです。


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