くぼみ・いきかた・すきま

2016-11-21

〈今日は、最近よく聞く言葉についての、ジャンルを横断した考察です。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

今日は、竣工後2年経ったリフォームの木の家へメンテナンス工事の立会いに。点検で見つかった箇所、いわゆる初期不良を手直しに行ってきました。こういうことは早めに見つけて早めに対処が肝心ですね。

 

昨日の完成見学会のお宅にもあり、そして今日のリフォームのお宅にもあったものについて今日は書いてみましょう。先日の「FIX」と同様その「呼び名」が気になるので、その語意について触れてみます。

 

冒頭の写真は、先月末にお引渡しをしたお宅にあった、同様の箇所です。照明が美しいここは、モノを飾る場所。では、この壁の窪み、あるいは凹みのことをなんと呼ぶか、皆さんはご存知ですか?

 

知っている方もおられるでしょう、これは「ニッチ(niche)」というものです。この言葉は本来、西洋古典建築の用語。よく西洋の石造建築で見ませんか、壁が半円柱状にくり抜かれて、そこに偉人の彫像などが飾られているやつ。あれです。

 

そこから、壁を凹ませた部分のことをこう呼ぶし、私たち建築屋の間ではニッチと言えばこのことなのですが、でもこの言葉、最近よく聞く気がしませんか?それも、建築ではなく、マーケティングの用語として。

 

よく「ニッチな市場」と言ったりして、私にはこれがとても気になる。意味としては「潜在的な需要があっても今まで手付かずで隙間になっていたような分野や市場」というような感じでしょうか。

 

日本語に「隙間産業」なんて言葉もありますが、それと通じるものがある。今や「ニッチ」は、建築ではなく経済用語になった感がありますね。でも、私は個人的な興味から、この言葉にさらに別の意味があるのを知っているんです。

 

それは生物学用語としての「ニッチ」。これは「生態学的地位」と訳されていて、その意味はこうです。「個々の生物種が、生態系の中で占める位置または役割。同じ生態的地位をもつ二種は共存できない」。

 

要するに、食物連鎖の中で草食、肉食、様々な種の動物がいる。その中で、例えばアフリカのサバンナという環境の中で「Aという高木の葉っぱを食べる」というニッチにおさまる種はキリンだけ、というような意味合いですね。

 

そして、経済学用語の「ニッチ」は、実はこの生物学用語の「ニッチ」から派生したもの。ある種だけがぴたりと嵌まることのできる環境上の適所、という意味から、それが適所→隙間と転じるようになった。

 

そしてさらに生物学用語の「ニッチ」は、建築学用語の「ニッチ」から派生しているんです。壁に設けられた凹みに彫刻がぴったりおさまるように、あるニッチにある生物がちょうど適応する、ということから。

 

いや、人が操る言葉というのは左様にその意味を転じ、ジャンルを変えて違った使われ方をしていくんですね。それを知ってから冒頭の写真のニッチ、あるいは西洋古典建築の「本来の」ニッチを眺めると、また違って視える気がしませんか。

 

今日は言葉遊びのようなお話でしたが、こうしたジャンルを横断して転じていく言葉は、洋の東西を問わず建築用語にも色々あります。折に触れてまた、ここでご紹介していくことにいたしましょう。


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