かたちの世界

『明治宮殿のさんざめき』   米窪明美 著   文春文庫

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

先日ブックオフでゲットした数冊の中から、これを。ここ何年か江戸にはまっている私ですが、これは明治の御代のこと。それも、京都から東京へと移ってこられた帝、明治天皇の年間生活を描いたものです。

 

幕末の動乱を経て遷都となり、西洋のスタイルが雪崩を打つように入ってきた明治時代。そんな中で、まさに日本の古式ゆかしいスタイルの極致といえる宮廷はどうだったのか。そういう興味で読み始めました。

 

著者は近代宮廷の研究者。主として儀式の面からそのシステムを究明せんとしている方らしく、NHKの大河ドラマで、当時の時代考証も担当したことのある人物のようです。

 

そして本書の元になるのは、かつて宮廷に仕えた人々の声を記述し遺した文献たち。そこから明治天皇とその周囲の、主に四季折々の儀式を中心とした日常の風景を再構成したものと言っていいでしょう。

 

今ではあり得ませんが、戦前は「不敬罪」というのがあって、そうした言論は不可能だったのでしょうね。全て終戦後に回想として語られたものらしい。しかしそこから巧みに「暮らしぶり」が再現されています。

 

といっても、元々天皇陛下の日々のお暮らしなど私どもには想像もつきませんよね。でも本書には、とても意外な明治天皇や皇后の生活のことや、その人間像が色々と書かれてありました。

 

例えば、「限られた身分の者としか対面しない」という身分の区別を大事にしつつ、そのことが臣下の日々の活動の妨げにならないようにとのご配慮で、ほとんど「引きこもり」のような生活だった、とか。

 

私が志事柄興味をもっていた宮殿の建築のことも描かれています。寝殿造りで電気は通っているが、陛下が嫌って使われない。なのに人々は十二単などの重ね着から洋装になって、非常に寒かったらしい。

 

古来営々と受け継がれてきた日本独自の建築のあり方と、西洋から導入されたモノたちとの間で、少し妙な感じの折衷様式になっている部分もあったようですね。外観は寝殿造り、内部は絨毯敷き、など。

 

こうした時代の流れの中で、しかし明治天皇は皇室の儀式において古来からの形式、「かたち」を非常に重んじておられたようです。著者が随所で強調するそのことには、私も考えさせられるものがありました。

 

こういう記述があります。『「形と心」が一致した世界では、正しい形で神に祈ることこそが、心から神を敬うことになる。言い換えれば、正しい形で祈らなければ心から神を敬うことにはならない』と。

 

そこから現代の私たちを省みると、「心」や「想い」ということを重んじるあまり、「形」を軽視するようになってしまっているのではないか。その形とは、「所作」という名で呼ばれるものですね。

 

思えば、武道であったり、茶道や華道など、昔ながらの日本の伝統を伝える「道」では、所作が非常に大切にされます。それを常に正しくおこなうところに気持ちが入っていくのだ、と教えられます。

 

そうした「かたちの世界」が、本書には描かれている。それが古来この国で大切にされてきたものであり、きっと今でも日本の皇室には、そうした美しい世界が受け継がれているのでしょう。

 

そんな、日本人としての自分がつい忘れがちになってしまっている大事なこと。そこに気付かせてくれるような、その意味でとてもためになる一冊でした。


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