食文化を愛す

『食に知恵あり』   小泉武夫 著   日経ビジネス文庫

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

著者・小泉武夫氏のことは、ご存知の方も多いかもしれません。農学博士で東京農大名誉教授、専攻は醸造学・発酵学・食文化論。著書百数十冊というエネルギッシュな先生の御本、でも私は初めてでした。

 

自らを「味覚人飛行物体」と名乗り、別名を「食の冒険家」とも。その名の通り、世界中を飛び歩いて触れた「食」についてのエッセイ集です。ただしこれは、「美食」の本ではありません。「食」の本です。

 

国ごとに、地域ごとに独自の食文化がある。そこには、科学的理論などなかった時代から人々が経験として蓄積してきた、大いなる知恵が埋め込まれている。それがタイトルの所以であり、本書を貫くテーマです。

 

採取法、調理法、保存法、そして著者の専門である「発酵」の技術。所変われば品変わるとの謂の通り、そのバラエティの豊かさたるや、驚くべきものですね。

 

特に日本独自の食文化については、それぞれの項目でその起源や古文書の記録にも触れ、大いに勉強にもなります。また、栄養学的な知識もあちこちに散りばめられていて、その方面の学びにも。

 

こう書くと、いわゆる食エッセイって皆そういうものでは?というご意見が聞こえてきそうです。しかし、私の感想はさにあらず。なんと言えばいいか、その幅と深みが違う。

 

そして何と言っても、自らの体験という食の探求から生み出される言葉、その説得力はすごい。また、読めばすぐに、この人は食べること、料理をつくることが大好きなんだ、ということが伝わってくるんです。

 

本書は元々、日本経済新聞に毎週連載されていたものだそうです。平成6年4月から8年6月掲載分とのことですが、こういう伝統的な食文化の話は、古くなることがないのも嬉しいですね。

 

というか、むしろ私たちは、こういう本をきちんと読み、先人の知恵を忘れてしまわず、己の暮らしに活かし、なおかつ次の世代にそれをまた手渡していかないといけない、そういう気分にもさせられました。

 

本書からひとつ、私が驚嘆したネタを。よくある「これまで出会った中で、世界一珍しい食べ物は何か」という質問に、氏は「石川県美川町の、ふぐの卵巣の糠漬け」と答えるのだそうです。

 

ふぐの猛毒は、特に卵巣の部分に最も濃く含まれるそうですが、塩漬けした後の卵巣を糠味噌に漬けておくと、3年ほどで発酵菌が毒を分解して無毒にしてしまうと言います。菌のチカラ、恐るべしですね。

 

実はこのブログを書くのに、小泉武夫氏のことをググってみて、ご自分のサイトをおもちなのを知りました。これがまた面白い。

丸ごと小泉武夫食マガジン

 

そしてまた、別のあるインタビュー記事から、いま氏が展開している活動として、ひとつは「生ゴミを燃やさない」があることを、あるインタビューから知りました。日本は世界一生ゴミを燃やす国、との話。

 

「莫大なお金を投じて建設した焼却施設で,大量の二酸化炭素を排出して地球温暖化に貢献し,ダイオキシンの出る灰をつくる。こんな愚かなことはありません。生ゴミを全部発酵させて,堆肥にして肥沃な土で農業を営めば,農家も潤い,理想的な地方経済循環システムができるのです。」

 

そしてもうひとつが「食育」である、とも。こうした氏の主張は本書にも一貫して現れています。生ゴミ処理も食育も、永い歴史の中で育まれてきた食文化の範疇にある。それをいま分断してはいけない、と。

 

私の周りにも、食に気をつけている方々が非常に増えてきている気がしています。そういう方には是非、このエネルギッシュな大先輩の著書、ご一読いただきたいと願うものです。

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