ことばの様式

『新装版 若き獅子』   池波正太郎 著   講談社文庫

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

つ、ついに池波正太郎を読んでしまいました(笑)。この時代小説の大作家、無論以前から気にはなっております。しかし『剣客商売』、『鬼平犯科帳』、『仕掛人・藤枝梅安』などには恐れ多くて手が出ない。

 

でも、最近知ったんです。この大作家にわりと軽妙なタッチのエッセイ集などの著作も多くあることを。そして本書のような「歴史読み物」と言うべき書物も。こういうものから池波入門を、という次第です。

 

本書は、1961年から68年まで雑誌「歴史読本」に連載された短編を編んだもので、だいたい私が生まれた頃です。著者は40歳前後。多作な方の本を読む時、いくつくらいで書いたのか、私は気になりますね。

 

先に「歴史読み物」と書きましたが、いわゆる短編小説ではありません。「ある人物の史実を読み解く」という感じの中身で、文献調査による「こうであったのでは」という著者の考えが描かれています。

 

採り上げられているのは、主として幕末から明治維新を生きた人たち。表題の「若き獅子」は、高杉晋作の回のタイトルです。高杉晋作が最も有名人で、他には松平容保、河合継之助、小栗忠順と渋い人選。

 

あまり一般には知られていないこれらの人たちについて、その人物像を各回で描きつつ、池波正太郎が考える「明治維新」という動乱期の本質がそれらの中から浮かび上がってくる、そう感じられました。

 

そしてその文章がとてもいい。これが池波節か、と思いました。時代を追いつつ氏の考えを交えて描いていきながら、時々小説の一節が挿入されたような部分が登場する。その「読ませ方」が素晴らしい。

 

読ませる力は無論その内容にも漲っています。明治維新の英雄たちの他には「忠臣蔵」で二編が書かれていますが、浅野内匠頭、吉良上野介、ともに池波流の解釈あり、知られていない史実ありで愉しめました。

 

そしてなぜか一編だけ、異質な感じのものが混じっているのですが、それが葛飾北斎の章。これもまた画狂人・北斎の魅力を余すところなく伝えていて面白い。著者の共感ぶりも大いに伝わってきます。

 

読んで思いましたが、内容、文体、そして語り口も含め、やはり人気作家と呼ばれる方にはそれぞれ独自の「ことばの様式」をもっているんですね。平岩弓枝も、藤沢周平もそれが作品内に満ち満ちている。

 

今回初めて触れた池波正太郎作品にも、そのことが大いに感じられました。氏には「ダンディズム」系や「食」のエッセイ集もあるようですから、しばらく時代小説以外の池波世界に浸ってみるつもりです。


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