疑問からの実り

『人生フルーツ』   伏原健之 監督   東海テレビ放送 製作

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

今日は午前中お休みをいただいて、久しぶりに映画を観てきました。なんと4人もの方々からご推薦をいただいていた『人生フルーツ』。お薦めくださったのは友人と、そしてお二人の木の家の住まい手さんです。

 

こんなにも多くの方から映画の推薦をいただくなど、私にとっては非常に珍しいことですので、「これは観なければ」と。しかしあまり内容についてはよく知らず、ほとんど予習もせずに観てきたのでした。

 

でも、観た後は皆さんがお声がけくださった理由がわかる気がしました。これは、90歳の建築家と奥さんの物語なんですね。その素敵な暮らしぶりのドキュメンタリー映画で、「木の家」も登場しましたから。

 

おそらく、主人公が建築のヒトであること、そして私がブログによく書く「豊かな日常」と言える自然と共にある暮らし、その模範のようなご夫妻であること。そんなことから皆さんご推薦くださったのかな、と。

 

70種の作物と50種の果樹がある、里山のような300坪の土地と、そこに建つ木の家。自然の恵みを食する、地に足の着いた生き方。それは今、多くの方がその大切さに気づき始めているものの、まさにお手本。

 

あまりネタバレはいけませんが、映画には巨匠建築家たちの言葉も散りばめられ、ご主人である津幡修一さんの設計者としての足跡も語られて、その生き様と現在の暮らし、どちらも大いに共感できるものでした。

 

しかし、この映画で語られたものから私に最も響いてきたのは、そうした生き方にご夫妻が至るきっかけともなった、ある「疑問」でした。これも詳しくはご鑑賞いただくべきものですが、少しだけ書きます。

 

それは、修一さんが関わり、かつご夫妻が現在上記のような暮らしを営む街ができる時のお話。自然との共生を盛り込んだ修一さんのマスタープランが経済原理優先、効率優先の世相の中で捻じ曲げられてしまう。

 

そうしたことへの疑問の念、悔恨の念が、氏をして「そう出来てしまった街の中で、こんな暮らし方もあり得るということを試してみる」という行動へ突き動かしたのでは。私にはそんな風に感じられました。

 

そして実は私も、街づくりとはまた違った面で、建築というものへの疑問の念が、今の志事へと自分を突き動かしたという経験をもっています。その疑問とは、ここによく書く「建築の寿命のあまりの短さ」です。

 

スクラップ&ビルドがあたり前の業界、なぜそんな資源と費用の無駄遣いをするのか。それはひとつには素材や技術の問題ですが、ひとつには「自分のモノ」という愛着がそこに全く無いから、ではないか。

 

そして「誰のためにこの建築を設計するのか」という疑問も段々強まっていく。そこで私が出した結論が、木造で、「私たち家族のモノ」と言える個人住宅を、愛着をもてるよう「一緒に」つくる、だったんです。

 

今から18年ほど前に私が感じたことと、本編の主人公が50年ほど前に感じたこととは、次元が違うかもしれません。でもこの映画から、修一さんが当時いかに落胆したか、私には痛いほどに伝わってきました。

 

いやいや、あまり自分のことばかり書いていてはいけませんね。そういうこともあって特に、本作は私の心に共鳴をもたらしてくれる素晴らしいものだった、ということなんです。推薦者の皆さんに感謝です。

 

ある住まい手さんが本作を評していわく、「私の理想の暮らしです」と。ここでのテーマのひとつは「時間」で、そうした暮らしは一朝一夕には出来ず永い時間を経てこそ成るもの、という教えだと思います。

 

自然な生き方を望む方には、大いに琴線に触れる映画です。そしてつくり手の私には、一緒につくった木の家が永い時間の後に「豊かな暮らし」に結実するという、己の理想をもう一度教えてくれるものでした。

 

風が吹けば、枯葉が落ちる。
枯葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果実が実る。
こつこつ、ゆっくり。
人生、フルーツ。


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