桝目かわれば

〈古いお宅に入らせていただくと、私などはそのゆったり感が何に由来するか、すぐ思い当たります。〉

 

ご愛読、ありがとうございます。木の家づくり・暮らしのプロデューサー、山口です。

 

このところ冒頭の写真が和風っぽい、そんな記事が続いていますね。今日もまたその雰囲気、先日下見をしたリノベーション予定の建物で感じられたことを書いてみようと思います。

 

リノベーション予定とは言え、まだ今のところは元の持ち主さんが住んでおられたその建物。ご無理を言って内部の見学をさせていただいたのですが、中に入ってすぐ、私にはピンときたものがありました。

 

そうしたらその住まい手さんがこう言われました。「古い家なんで、全体にちょっと広めでしょ」と。やはりそうかと思って「やっぱり本間(ほんけん)なんですね」とお聞きすると、「そうです」とのお返事。

 

この「本間」は、「京間(きょうま)」とも言ったりします。対して、今普通に私たち家づくり工務店が使うのは「江戸間(えどま)」あるいは「関東間」。と言ってもこれだけでは何だかわかりませんよね。

 

でも、わからないとは言っても、「六畳」「八畳」と聞けばどれくらいの広さの部屋か、皆さんもなんとなくおわかりだと思います。それは、日本建築がずっと畳の大きさで部屋の広さを表してきたから。

 

そして畳の長辺の方の長さを「一間(いっけん)」、短い方を「半間(はんげん)」と呼びます。これは尺貫法でつかわれる呼び名で、一間角の正方形が「一坪」となります。一坪イコール二畳になります。

 

日本の木造建築は今でも、この半間を1単位としたグリッドの上に間取りを描いていくのが基本ですし、私もそうします。それは技術面・材料面で合理的につくるために受け継がれている知恵と言えるでしょう。

 

で、今回の「本間」は、この「間」と関係があるんです。「間」とは元々「柱間(はしらま:柱と柱の間の距離)」からきており、実はそれは常に一定ではなかった。時代によって変わってきたんですね。

 

ずっと昔、畳というものがなかった頃、あるいは畳が単なる「敷物」だった頃、建物の床は全て板間で、柱も丸く太く、柱間も広かったようです。ところが時代が下ると、家全体が畳敷きになってきました。

 

ここで建築の寸法体系に大きな変化が訪れます。全てが「畳の大きさ」を基準につくられるようになったんです。柱が四角くなったし、畳の大きさは常に一定で、何枚敷くかが部屋の広さ。入れ替えも可能でした。

 

こう書くと「今は入れ替え出来ないの?」というお声が聞こえてきそうです。そう、今は入れ替え出来ないんですよ。それは江戸時代に、畳基準からまた「柱間」を基準にするように変わったからです。

 

そして京間あるいは本間とは本来、畳の大きさを基準とする「畳割り」という考え方によるものです。畳の大きさは1910ミリ✕955ミリで、八畳の部屋の柱間は3940ミリ角。となると半間は985ミリです。

 

畳割りに対して柱間を基準にする考え方を「柱割り」と言いますが、柱割りの時代になっても、この半間=985ミリというのが「本間」として残りました。今回下見したお宅はこの985ミリ基準だったのでした。

 

それに対して、今普通に私たち工務店が使っているのは半間=910ミリです。75ミリも違う分、同じ六畳が狭くなっているというわけ。これで最初の「全体に広めでしょ」の意味が伝わりましたでしょうか。

 

「本間の六畳」は関東間でいう六畳の1.2倍近い面積になります。2割増しはだいぶ違いますよね。「間」という日本建築のモデュールが変わると、その空間の感覚もだいぶ変わってくるということですね。

 

本間が主流に返り咲くことはもうないでしょうが、こうして古い建物に入らせていただいた時、そのモデュールという桝目の違いが生む空間の余裕、大らかさを感じとるのは、私にはとてもいい気分なんです。

 

また、自分もこの大らかさを木の家に纏わせてみたい、そう思ったりもするのです。冒頭の写真の如く廊下まで畳敷きの伝統建築をやろうとは思いませんが、本間によるゆったり感は、とても良いものですから。


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