詩情をあつめて

『名句 歌ごよみ 冬・新年』   大岡信 編   角川文庫

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

詩人・大岡信の訃報にふれて初めて手にした著作『「忙即閑」を生きる』で、氏のつむぐ言葉の味わいや深みに惹かれ、そこから本書の存在を知りました。いわゆる「アンソロジー」と呼ばれるジャンルの本。

 

アンソロジーは英語で、詞華集と訳されるそうです。色んな作者の詩を集めたものですが、日本にも万葉集をはじめとした「歌集」が大昔からありますね。本書は大岡信による名句、名歌の歌集なんです。

 

「冬・新年」というタイトルでもわかる通り、季節別に4冊の「名句 歌ごよみ」があります。まずは一年の初めから、ということもあり、私の好きな冬から読み始めました。著者のセレクトに期待しつつ。

 

といっても私は和歌や俳句に親しみは薄く、むしろ疎い方だと思います。でも最近の読書傾向はその世界に重なってきている。例えば芭蕉や一茶、蕪村が主人公の時代小説を読めば、当然句は出てきますから。

 

本書は「時雨」「雪」「氷」「正月」「鴨」5章に分かれ、その主題のものが集められています。短歌、俳句、風俗歌、自由律俳句も一緒くた、時代もバラバラなのは、どれも同じく「詩」だからでしょうか。

 

わからぬままに読了してみて、こういうアンソロジーならではの魅力というものを感じました。数は俳句が一番多いですが、そこに詠まれたものと同様に、詠み方にも作者の個性があるのがよくわかるのです。

 

でも、やはり素人には一読してその句や歌の言わんとするところは伝わりにくいし、何となく「いいな」と感じても、それが何に起因するのかはわかりにくい。そこに、編者による解説が光を差してくれます。

 

作者のことを述べ、その句や歌のポイントをあげ、なぜそれが秀逸なのかを語る。その解説の文章そのものがとても美しく、詩情に溢れる言葉なので、こちらもより一層もとの句や歌に親しめる気がしました。

 

それぞれの作品(?)をご紹介していくわけにはいきませんが、ひとつだけ私がとてもいいと思った作を。

ゆきふるといひしばかりの人しづか     室生犀星

 

これは解説を読む前から、なんだかその情景が浮かんできました。「雪が降っていますね」とだけポツリと漏らした人、そして自分(作者)とが静かに向かい合って座っている感じ、その無音の中の雪の音が。

 

その後解説を読んでみると、だいたいそういう感じだったのですが、編者によればこれは「雪を見て言っているのではない」と。部屋の障子の外で降っている雪なのだ、と。なるほど、深いですなあ(笑)。

 

俳句という形式は和歌より新しい分、現代人の我々にも親しみやすいのかもしれませんね。本書は芭蕉から昭和の俳人までを網羅し、大岡信の「詩」的解説を読める、その世界へのよき入門書とも言えそうです。


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